植物から生まれた薬と伝統医療
現在の西洋医療で用いる薬と伝統医療で使う植物や鉱物などはあまり関連がないと思っている方も多いのではないでしょうか。実は近代に使われるようになった薬の多くは、植物、動物、鉱物などに含まれる、成分を抽出し少し手を加えて作られています。つまり、伝統的に用いられてきた生薬からヒントを得て多くの薬が作成されました。
植物から生まれた薬
植物から生まれた薬にはいくつか代表的なものがあります。
ヤナギの木から生まれたアスピリン
ヤナギの木は古代より、痛みを和らげる作用があるとされ伝統的に利用されてきました。紀元前には医学の祖とも言われるヒポクラテスもその樹皮を使用し、鎮痛・解熱に使ったと言い伝えられています。また、日本でも歯の痛み止めとして爪楊枝に使用されるなど、植物を利用した伝統医療に使用されてきました。これらの、歴史から18世紀には、ヤナギの木から有効成分が分離され、ヤナギの学名からサリシンと名付けられました。その後にサリシンを分解されサリチル酸が作られ、副作用を軽減したアスピリンが合成されました。
キナの木(アカネ科)の樹皮から生まれたキニーネ
キナの木は南米原産の薬木でインカ帝国では、この樹皮を解熱などに利用してきました。大航海時代が始まると、このキナの木はマラリアの特効薬として広くひろまりました。さらに19世紀にフランスの薬剤師がキナの木から有効成分を分離に成功し、その後ジャワでキナの木を大規模生産を開始し注目を集めました。
インフルエンザ薬のタミフルと八角
八角という香辛料の名前を聞いたことがあっても、タミフルと八角の関係を知っている方は少ないのではないでしょうか。八角は、トウシキミと呼ばれる木の実を乾燥させたものです。伝統的には、健胃や鎮痛、腹部の不調に用いられてきましたが、この八角から抽出されたシキミ酸を使用してタミフルが作られたため、タミフルが品薄になった時は、この八角の買い占めが起き価格が高騰したと言われています。この八角そのものがタミフルと同じ作用があるわけではありませんが、シキミ酸がタミフルの原料になるので、一時はとても重要でした。現在はシキミ酸を安定して生産できるのでこのような問題は起こりません。
伝統医療と植物
現在は、西洋の薬が一般的に使用されるようになり、植物を利用して治療を行うことが少なくなりました。しかし、その薬の多くは自然界から作られたものがほどんどです。伝統的に使用されてきた植物には、とても多くの情報が集約され、現代の科学ではまだ解明できないことも数多くあります。そんな、自然の中にある植物の力を今一度考え直すのもとても重要ではないかと思います。人の体は、その時々で状態が異なります。その人の状態を考え、植物の複合的な作用を利用してもとの状態に戻していく。そんな漢方や中医学的な考えが今後重要になってくるのではないかと思います。もちろん、西洋薬として使われるものも、役に立つものが多くあります。今後はこれらをうまく取り入れ、病気になる前に食い止める予防を行なっていくことが健康寿命を引き上げる鍵になってくるのではないでしょうか。
健康な毎日が続くことを心から願っています。